
「街と呼応するデジタルアートと“呼吸する”建築・ディスプレイ」をコンセプトとする玉川高島屋S・C南館のアトリウムガーデンLEDキューブでは、ジェネラティブアートを中心とした作品の常設放映が行われている。《Ephemeral Shapes》は、そのプログラムの一環として2025年7月から放映が始まった。制作したのは、p5.jsを用いた作品で知られるクリエイティブコーダーのOkazz。二子玉川の街並みから着想を得て、建築を思わせる直線や矩形と、自然を連想させる円や曲線を組み合わせながら、図形が現れては消える生成的な風景を描き出す。今回はそのOkazzに、作品が生まれた背景や制作プロセス、そしてジェネラティブアートを公共空間に設置することの意味について話を聞いた。
玉川高島屋S・C 南館。エントランス上部の大型キューブに《Ephemeral Shapes》が映る(2025年8月撮影)。
玉川高島屋S・C 南館のアトリウムガーデンは、2025年3月、「ガーデンテラス」としてリニューアルされた。設計は建築デザイン事務所 NOIZ。既存のルーバーを撤去してアトリウムを街路側に開き、最大六メートル角の大型 LED キューブを含む計三台のキューブ型ビジョンが新設された。
キューブ型のLEDビジョンは、平面のサイネージと根本的に性質が違う。視点を移動すると面と面の関係が変わり、映像に奥行きと体積が生まれる。広場のどこから見上げても「正面」がない。つまりこの器は、情報を一方向に届ける装置ではなく、空間に置かれた物体として振る舞う。
設計者のNOIZは、建築をアルゴリズム的に捉えることがある。建築は竣工した瞬間に一度「止まる」が、本来は人や環境との関係のなかで変化し続ける動的な存在でもある。その変化する側面をデジタルによって担う装置として、このキューブはファサードに埋め込まれている。その意味で、ここに映し出されているのは完成された映像ではなく、生成し続けるプロセスそのものだ。ジェネラティブアートがこの器の一等地に置かれているのは、装飾ではなく設計思想の帰結なのである。
ガラス屋根の骨組みの中に浮かぶように見えるキューブ。白い骨組みと黒い箱のコントラストが際立つ。
制作にあたって、Okazzは事前に二子玉川を歩いた。多摩川と国分寺崖線の緑、その間に建つ記号的な建築群。本人はこの街の印象をこう語る。
シンプルに言うと、かっこいいというイメージでした。建物と自然が混ざり合ってる。ソーラーパンクっていうのかな——ガチガチの人工物と植物、みたいな。ああいうのがすごいかっこいいなと思っているので、いい街だなというのは正直ありましたね。
作品の構造について、本人の説明は簡潔だ。
その頃、表現として好きだったのが「現れて、動いて、消える」というもので。消えて、出てきて、ループされている感じが、そのときいちばんハマっていた表現だった。それが街のイメージと組み合わさって、ああなった、という感じですかね。
人と車が絶えず流れ、入れ替わり続けても、街の雰囲気そのものは保たれている。図形が生成されては消えるループもまた、この街が持つ時間の流れを映し出しているようだ。画面は消滅と再生を繰り返しながら、そのたびに新しい配色や密度、構成を立ち上げる。同じシステムから生まれながら、そこに現れる景色はつねに少しずつ異なる。アルゴリズムがリアルタイムで描き続けているからだ。毎日この前を通る人は、毎日少し違う《Ephemeral Shapes》とすれ違っている。
同じキューブの、わずか三十秒弱のあいだの変化(現地撮影動画より)。図形で満たされた画面が、ほとんど空白まで消え、別のパレットで再び生成される。
同じ大型キューブの別の瞬間。多色のコンポジションと、赤・ティール主体のコンポジション。システムは同じでも、画面は常に別の状態にある。
2026年6月6日。この日Okazzは、講師を務めるワークショップのために二子玉川に訪れた。その合間に、本館三階の「LOOP」でトーク収録の席に着く。そこで自分の作品があのキューブで動いているのを、まだ見ていないということが明かされる。「タイミングが合えば来られたらいいな、くらいで、全然見てなくて。まあ、一年経っちゃったという感じなんですけど」。
収録の後半、一同はカメラを持って外に出て、デッキの上からキューブを見上げた。つまりこの日が、作者と作品の初対面だった。
いや、いいっすね。——自分の作品、いいですね。
作者が現地を訪れないあいだも、《Ephemeral Shapes》は毎日この街で動き続けていた。朝の通勤時間にも、休日の買い物客のあいだにも、季節が移り変わるなかでも、アルゴリズムは同じ場所で図形を生成し続けていた。ジェネラティブアートとは、作者の手を離れたあとも自律的に振る舞う表現である。《Ephemeral Shapes》もまた、作者の視線を必要とすることなく、この街の風景の一部として存在しているのである。
2026年6月6日。放映開始からおよそ一年、作者がはじめて自分の作品の下に立った。
収録中、もう一つ興味深い指摘があった。
他のスクリーンとは時間スケールが違いますよね。たいていのサイネージは、次々にコンテンツが切り替わって情報を伝えてくるものだけど、これは環境の中に存在して、ゆっくり作品が流れている。建物や自然が持っている時間スケールと近い。
標準的なDOOH広告は十五秒単位で切り替わり、人々の注意を引くことを目的としている。一方、《Ephemeral Shapes》はゆるやかな速度で変化を続ける。作品の前で足を止めれば、その変化を追うことができるし、通り過ぎれば色彩の断片として視界に残る。建築や街路樹と同じように、街の環境を構成するひとつの要素としてそこに存在している。
放映開始からおよそ一年。作者がまだ見ぬあいだも、《Ephemeral Shapes》は二子玉川の空間のなかで動き続けていた。作品はすでに街の日常に溶け込み、人々の往来や季節の移ろいとともに存在し続けていた。
夕暮れどき。三台のキューブが灯り、その下を人が行き交う(現地撮影動画より)。「朝昼夜で異なる雰囲気」の、夜のはじまりの顔。
確認を終えて。通りの向こう、街の雑踏の上で動きつづける自作を、作者が眺める。
| アーティスト | Okazz |
| Space | 玉川高島屋S.C. LEDキューブ |
| 期間 | 2025.7.18 0:0:0 -2025.10.31 13:0:0 |